「江戸里神楽公演学生実行委員会」の活動再開について ~「神楽公演実行委員会」として~

1.はじめに

コロナの扱いが感染症の5類へ移行しました(令和5年5月8日)。これが感染症対策として是であるか非であるかは浅学な筆者には論じることがかないません。しかし、確実にこれ以後、人の行き来、やりとりは回復を遂げてきています。

このコロナ禍で「江戸里神楽公演学生実行委員会」をとりまく状況はより厳しいものとなりました。

第一に、学生が中心を担う形の委員会でありながら、新たな学生の参入の見通しが立たなくなりました。そもそも学生と大学、学生間の交流もおぼつかない中、その余暇で取り組む、サークル的、ボランティア的な当会への参画は学生にとっても選択肢の一つにはなり難いものであったことは容易に想像がつきます。同時に入会した学生が後輩へと入会を勧めてくれる、という流れも絶たれました。会の活動に理解のある講師が入会を勧めることも困難になりました。これらの結果、委員会と教育機関との関係が希薄になってしまいました。

第二に、神楽の演者との関係性も同様です。神楽を演じる機会が感染症対策上、ほぼ無くなりました。その中、その状況を記録して貰うべく当会の者が働きかけ記録を残した、という例外はあります。しかし総体として、公演を実行する委員会として、公演をオファーできない状況は神楽の演者との関係性が希薄にならざるを得ませんでした。

それに加え、時の流れによる課題も生じてきています。それは世代交代です。団塊の世代は80代へと近づき、彼らは後進を育てる必要が、その下の世代は継承をしていく必要性がでてきています。これは委員会、演者ともに抱える問題であるといえます。そしてこの継承はゼロから行うことはできません。希薄になった人間関係を含め「再構築」していく必要があるといえます。

江戸里神楽公演学生実行委員会における再構築とはなんでしょう。これは人間関係のそれを含め、他に公演実施能力の再構築、記録をする技術の再構築があると言えるのではないでしょうか。
公演記録技術の再構築、これは単純に公演自体を記録するもの(例えばVTR)に留まるものではなく、公演プログラムの作成技術の再構築にまで至るものであると考えられます。

委員会による公演の最大の特長はこのプログラムの存在にあると言えます。そしてこのプログラムの内容は単なる解説に留まらず、その公演に関わる人間関係を反映しているものです。例えば学生によるスポンサーの訪問記、そして多く残る対談の記録。これらは公演に関わる人間関係を記録したものであると位置付けることができます。

委員会再始動にあたって、今置かれた現状を以上のように分析した場合、最優先に位置付けられるのは公演プログラムに記録された人間関係を再構築することになるのではないでしょうか。

今回はそういった仮定の基に、委員会ウェブサイトの再始動の方向性を述べていきます。

2.サイトのあり方について

2年前、委員会サイトのリニューアルを企図した際は、委員会のその時々の動きを報じる見世蔵的なサイトと、文庫蔵のようなアーカイブ機能を備えたサイトの2本立てを目指していました。2年経った現状、これはどうしていく必要があるでしょうか。

1)見世蔵のあり方 ~「つながりの神楽」の開設~

まず委員会そのものの活動が表だって盛んに行われる可能性は残念ながら低くなりました。委員会の構成メンバーの主たる学生の加入が見込めない今、神楽公演の実施は困難な状況です。かといってその可能性はゼロではありません。そうだとすれば、見世蔵的機能では、神楽公演が実施された場合の速報を伝える機能は残しながら、別の可能性を探っていく必要が生じると考えられます。具体的に言えば、Twitter、Instagram等のSNSの表示、更新情報欄は残すことが現実的と言えそうです。

その上で人間関係の再構築、すなわち人的交流の場を設けることが求められています。そのためにSNSの表示、更新情報欄の活用をするとすれば、神楽公演団体(社中など)の公演情報をはじめとする情報の収集と掲示を行っていくことが想定されます。さらに見世蔵を人が集う場としていくために、情報集積機能を持つ文庫蔵の更新情報を見世蔵を中心に掲示していくことも考えられます。とにもかくにも、神楽、もっと敷居を下げ民俗、伝統的なものに興味を持つ人が一度は訪れてみたいようなサイトの構築が必要になってくると考えられます。そして、そこで新規会員の募集を行うことで委員会メンバーを増やしていくことが必須になると思われます。

今回はそのために新サイト「つながりの神楽」を開設しました。当サイトは先述した通り、人の行き交う場となるようコンスタントな情報発信が期待されます。このサイトは元委員で、現在はフリーランスのWEBデザイナーである日香理氏が運営を担当していくことになりました。

2)文庫蔵のあり方「ラウンナバウト・神楽とその周辺」

次に文庫蔵的役割(アーカイブ機能)を果たす部分について改めて考えていきます。

文庫蔵として、今回「ラウンナバウト・神楽とその周辺」というサイトを開設しました。

このサイトの目的として第一に「つながりの神楽」へのコンテンツの提供とその蓄積をはかることとしました。そのためには人的交流の端となる意見表明の場として雑誌の投稿欄のような機能が求められると私どもは考え、連載を行う執筆者、寄稿をしていただく方の投稿の場として、署名入りのブログをコンテンツとすることにしました。

連載としては以下の2つのブログがあります。

  1. faraway eyes:前委員会立ち上げ人の1人でもある斉藤氏が神楽をはじめさまざまな事象を民俗学の目で見て記述していくブログ。
  2. 湯治場.net:温泉地研究を志向したが為に、民俗学、地理学、歴史学、社会教育学と様々な世界を彷徨っていて、なぜか前委員会最長在籍メンバーである田ノ上和宏が思いつくままに綴るブログ

これらに加え「ラウンナバウト・神楽とその周辺」自体のブログがあります。ここでは委員会の動向を紹介すると共に、将来的には寄稿欄として、様々な方の原稿を掲載していくことを予定しています。なお「ラウンナバウト・神楽とその周辺」ブログは査読制を採り、また書いたものを定期的に形にする(電子書籍等)過程を設け、ブログの記事に一定の水準を設けられるようにしたいと考えています。

またあわせて掲示板(BBS)を設けることで、それぞれのブログに対する意見のやりとりを通して人的交流を活発にしたいと考えています。

第二に文庫蔵(アーカイブ機能)という言葉が持つ意味通り、これまでの公演のアーカイブを構築していきます。

この記録は基本、前サイトをアーカイブとして保存した上で、①公演の紹介、②その期間の更新情報、③掲載されたメディアの紹介、④公演の映像公開を行う形にできればと考えています。これは前サイトの成果で既に一程度、過去の公演の紹介が行われているので、それを有効活用するためです。またその簡易なものは「つながりの神楽」に掲載することで私ども委員会の実績を知っていただく端緒にします。

次に回毎の公演プログラムについては電子書籍、pdfでの公開等いくつかの方法が考えられますが、公演プログラムの再構築を行っていく上で、慎重に検討して実施していくこととします。例えば、プログラムの目次を公開するなど一定の情報を公開した上で、当サイトを利用して貰えるよう誘導するなどの策が練れればと考えています。

第三に、これと並ぶものとして、アーカイブの資料館的機能を意識した情報の収集・整理・公開を行っていきます。具体的には以下の2点に着手します。

  1. ウェブ上にある神楽関係のサイトのリンク集の作成
  2. 関東の博物館で出版された神楽に関係する図録の情報の集成

また、これまでの公演プログラムを活かした人間関係の再構築の手段として、対談などの記録を再構成、必要によっては新たな取材(例えば委員会に希求すること)、インタビューの配信(zoom等を活用)などを行い、これも公開していくことを考えています。記録の再構成に至っては当然ながら権利関係の処理が求められ、そこでかつての対談相手との交渉の場が求められます。また新たな取材も同様に公演プログラムを基にした人間関係の構築へつながります。このことは単に委員会と演者、スポンサー等との関係の再構築に留まらず、演者間の継承に際しての生きた資料としても大きく寄与すると想定されます。つまり継承のための再構築の装置として委員会サイトを活用していきたいという構想を持っています。

そして、こういったコンテンツが、公演無き後、あるいは公演を一コンテンツとして扱っていく上で、動きのある情報となり見世蔵へのコンテンツ提供を可能にするのではと考えています。

3)見世蔵・文庫蔵の統合 ~両サイトの双方向的な運営~

今回、サイトを2つに分けました。ここには当委員会の活動が可能な限り人目に付くようにする必要と、これまでの活動・これからの活動を常にアーカイブとして整理していく必要、双方が求められると考えた結果です。それ故「つながりの神楽」にはwebデザインの専門家である日香理氏を招聘しました。また「ラウンナバウト・神楽とその周辺」は専門性こそかなり異なるところですが、両者とも学芸員資格の持つ人間が担当することとしました。

つまるところ、デジタルミュージアムの構築にあたり、資料の収集・整理・保存を「ラウンナバウト・神楽とその周辺」が担い、公開の主たる部分を「つながりの神楽」が担うということにしていこうと私どもは考えております。

その結果、果たしうる役割は『神楽のセンター的機能』という役割であると考えています。神楽に関連する人とのつながりを再構築していく中で、委員会が神楽の人的ネットワークの核になります。それと同時に委員会が文庫蔵的機能(アーカイブ・資料館)を果たしていくに従い、神楽の知が集積し、知の拠点になっていきます。そうすると新サイトを中心とした委員会は、それらを整理していく事務局のような役割をも持つようになると考えられます。

3.おわりに~委員会・新サイトの体制について~

最後に新サイト運営における委員会のあり方に若干の考察を加えておきます。

冒頭に述べた通り、当委員会はこれまで学生実行委員会形式をとってきました。しかし今現在それは困難です。また、9回の公演を重ね、さらに活動の舞台がインターネット上に広がった今、委員会が対象とする神楽を、江戸里神楽に限定する必要性も低くなってきました。
それ故、今回「江戸里神楽公演学生実行委員会」を「神楽公演実行委員会」と改称し、また新たに活動を再開しようと企図した次第であります。

同時に新サイトは可能な限りシンプル、かつ扱いやすいものにすることが求められます。そのためここではCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)の導入を行いました。

また、新サイトを新たな体制で行っていく以上、会則などの見直しも求められるかも知れません。さらに新体制で芸能公演実施の依頼が仮に舞い込んできたときの対応方法も検討しておく必要があるのかもしれません。例えば、県レベルの芸能公演の開催頻度が落ちた今、市町村における芸能公演の経験者は減少の一途を辿っています。そうした職員に研修の場として芸能公演の実施に参画してもらう、というような可能性もあるかもしれません。

現在の委員会は、学生はいない、公演は実行できないという名前の示すものとはほど遠い団体と化しています。しかし、それは幸か不幸か、コロナ禍では日常でした。学生は集えず、神楽は舞える場所が無い…。コロナとの共生という局面に至りつつある今、当委員会も新たな活動形態を模索できる好機にあると捉えることができます。その場の一つが委員会の新サイトであると言えるのではないでしょうか。

そして、これまでの活動を基にした形でありつつも(従来の神楽公演学生実行委員会の活動も維持しつつも)新たな、なおかつ故きを温ねる関係性構築の可能性。これが今、新委員会、その活動場所となる新サイトには存在するのではないでしょうか。

神楽公演実行委員会(斉藤・田ノ上・日香理)

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